コーヒーの主要な水洗式(湿式)の精製方法である[washed]がカタカナで表記される際に「ウォッシュト」と書かれているものもあれば、「ウォッシュド」と書かれているものもあり、どちらが正解なんだろう?と思われる方もいらっしゃるようです。
私たちカザーナコーヒーでは[Washed]は「ウォッシュト」と記すようにしています。
理由は単純に英語で[Washed]は「ウォッシュド」と発音されていないからです。
英語の一般動詞の過去形 [-ed]の発音には[/d/t/id/]の3つのパターンがあります。
[ed]が付く直前の動詞の語末が「有声音(声帯の振動を伴う)」か「無声音(声帯の振動を伴わない)」かによって規則的に決定されます。
有声音の子音 /b/ /v/ /g/ /z/ /dʒ/ /l/ /m/ /n/ /r/ /ŋ/ /ʒ/ /ð/
語末が「有声音」の場合 →[ d ] カタカナ表記「ド」
ex. closed, boiled, steamed, poured,
無声音の子音 /p/ /k/ /f/ /s/ /θ/ /ʃ/ /tʃ/
語末が「無声音」の場合 →[ t] カタカナ表記「ト」
ex. tamped, picked, iced, touched
語末が「d/t」の場合 →[ id] カタカナ表記「ィッド」
ex. blended, roasted
[Washed]の場合、[ed]直前の[sh]は無声音なので[ed]は[d]でも[id]でもなく[t]となります。
カタカナ表記には便宜的利便性と文化的、歴史的な趣、外来語表記に対する限界などの側面があると感じていますが、少しでも元の言葉に近い表記になるよう、そして日本のコーヒー文化の行末、未来のバリスタやコーヒー愛好家に想いを馳せながら今回記してみました。
発音、撮影に協力してくださった皆様、ありがとうございました!
カタカナ表記を注意深く観てみると、興味深い点が次から次へと出てきます。
ex. Jerryはいつから何故「ゼリー」?
ex. 大谷選手の活躍からニュースで聞こえてくる頻度の増えたLos Angels、Angels。表記は「エンゼルス」が多いものの発音は「エンジェルス」に変わってきている?
ex. そもそもcoffeeはコーフィーじゃなくてコーヒー?
ex. 「カザーナ」だってkhaは軟口蓋閉鎖音で日本語に無い音声、「ナ」は長母音だから本当は「ナー」?、等々。
「ウォッシュト」の表記について記したところ、数人の方から肯定的、否定的、どちらでも良いのでは?というご意見を戴きました。
多くの方にとってはどちらでも良い事に関して言語学的興味から、敢えて考えていることを発信してみて、お客様や色々な方とお話が出来たり、改めて再考するきっかけを戴き、良い気付きを得ることが出来たと感じています。
意味論の観点から見ると、「ウォッシュト」「ウォッシュド」と記しても読者はコーヒーの水洗式の精製方法のWashedのことを意味していることを連想する点ではどちらの表記でも意味するものは同じ、という考え方も出来ますが、「ウォッシュト」ではなく「ウォッシュド」と記す明確な根拠、理由は何故なのか?
①これまでの慣例慣習から?
②「ド」と記すことで英語の過去形だということを連想し易くなるから?
上記以外に他の理由があれば是非教えてください。
「カタカナ表記」について記してみて、言葉の面白さと難しさ、深淵さを改めて認識できた次第です。
言葉を考察することから今私たちがどんな時代に、どの地域、国の、どの様な環境、文化影響下の中を生き、暮らしているのか?という客観的な視点を増やすことが出来たらどれ程有意義でしょうか!
時々湧き上がってくる言葉への興味はそっと心に留めておくことにして、当たり前となっている慣例慣習には「何故?」という素朴な疑問を持ちつつ、心からの感謝と共にこれからも美味しいコーヒーをご準備することに努めてゆこうと思います!
Khazana Coffee / 栗原 崇
NICE👍